「助けを求めることは弱さではない」―営業の最前線から地域の子育て支援へ、一歩ずつ積み重ねたキャリアの軌跡
「誰もが自分らしく輝ける職場を目指して」
ミナテラスとちぎ チーフマネージャー 物井 真佐美(ものい まさみ)氏

栃木トヨタ自動車株式会社執行役員
コミュニティサポート室兼女性活躍推進室長
ミナテラスとちぎ チーフマネージャー
1991年栃木トヨタ自動車入社。
営業、県内女性初の店長、全国女性初のレクサスGM(ゼネラルマネージャー)を経て、2021年よりミナテラスとちぎ開業に携わる。現在は女性活躍推進室を兼務し、人が育ち誰もが働きやすい職場づくりに取り組んでいる。
未知の世界へ飛び込んだ先で得た新たな挑戦
― 学生時代は幼児教育を専攻されていたとのことですが、なぜ幼稚園教諭ではなく、一般企業である栃木トヨタへの入社を決めたのでしょうか。
○一般企業という広い世界への挑戦
子どもの頃の夢は、幼稚園の先生になることでした。もともと子どもが大好きで、一人ひとりに寄り添える幼稚園教諭になるのが夢でした。短大でも専門的に学び、就職活動も当初は専門職を考えていたんです。しかし、ふと「一度、一般企業という広い世界を見てみたい」という思いが芽生えました。当時は「トヨタなら安心して働ける会社だろう」という、今思えば漠然とした思いで栃木トヨタの門を叩きました。
― 異業種への挑戦、それも全く専門外の自動車業界に飛び込むことに不安はなかったですか。
○不安の先にあったキャリアの原点
入社前は「なんとかなるだろう」と楽観視していましたが、現実は甘くありませんでした。入社してみると、それまで学んできた世界とは全く異なる場所で、入社後に感じた不安の方が圧倒的に大きかったですね。学生時代に取り組んだ実習や知識も、ビジネスの現場ではそのまま活かせる場面は多くありませんでした。車の知識もゼロ、学生時代の経験が直接役立たない中、まさに「ゼロベース」でのスタートに不安を感じていたのを覚えています。幼児教育の枠から一歩出たことで、自分が何も知らない現実に直面し、そこから私自身の「キャリア」が本当の意味で始まりました。
車の知識もなく、一からトヨタの考え方や商品について学ぶ毎日で、営業という仕事にも戸惑いながら取り組みました。当時は女性営業スタッフもまだ少なく、「女性だから」ではなく、一人の営業スタッフとして認めてもらいたいという一心で仕事に向き合っていました。
― 日々学びながら働く中で、仕事に対する考え方に最も影響を与えたものは何でしたか。
○最も影響を受けたトヨタの創業の精神
転機となったのは、トヨタの創業の精神に触れたことでした。「日本人の手で国産乗用車を作り、人々の暮らしを豊かにしたい」という創業者の想いを知り、私の仕事観は変わりました。「単に車を売るのではなく、お客様の人生を豊かにするお手伝いをする。」と定義し直すことで、営業活動のすべてが誇らしいものになり、前向きに仕事に取り組めるようになりました。
営業時代は、「一台でも多くトヨタの車を届けたい」という思いで、お客様一人ひとりと真剣に向き合ってきました。その思いは、店長、レクサスGM(ゼネラルマネージャー)、そして現在の人財育成や女性活躍推進の仕事にもつながっています。
今は、車を届けるだけではなく、その想いを受け継ぎ、お客様に選ばれ続ける人財を育てることが、私の使命だと考えています。
― どのようにモチベーションを保たれていたのでしょうか。
○挑戦を支えた、お客様の「ありがとう」
販売店の店長やレクサスGM(ゼネラルマネージャー)という新たな役割に挑戦する中で、手探りの連続でもありましたが、私を支えてくれたのはお客様からの「あなたにお願いしてよかった」という一言でした。「物井さんにお願いしてよかった」「またお願いしたい」と言っていただけることが大きな励みとなり、もう一度頑張ろうという力をいただきました。振り返ると、私はお客様に車をお届けしてきただけではなく、お客様から育てていただき、支えていただいたのだと思います。
営業の現場を離れた現在は、共に働く仲間の成長や「ミナテラスとちぎ」で見せる子どもたちの笑顔が最大のモチベーションになっています。これまでいただいた「ありがとう」を、今度は人を育て、支えることで次の世代へつないでいきたいと思っています。

― 「販売店店長やレクサスゼネラルマネージャー(GM)」など、前例の少ない道を歩まれてきました。プレッシャーも大きかったのではないでしょうか。
○前例のない挑戦を支えた周囲の信頼
約20年前、まだ「女性活躍」という言葉がスタートした頃に、販売店の店長に就任しました。周囲には経験豊富な男性の先輩方ばかりで、正直、うまくスタートが切れたとは言えません。しかし、上司や同僚が「信頼して任せてくれた」ことが最大の支えになりました。「女性初」というレッテルを意識しすぎず、目の前のお客様やスタッフが喜ぶために何をすべきか。その一点に真摯に向き合えたことで、結果として周囲の強力な後押しをいただけたのだと思います。


― リーダーとして大切にしていた「関係性」について教えてください。
○周囲への感謝が育んだリーダーシップ
自分が道を切り拓くというより、周りの方々に「支えられて今がある」という感謝を忘れないことです。前例がないからこそ、自分一人で完結しようとせず、周囲の信頼に応える形で一つひとつの仕事を積み重ねてきました。その時に任された役割を大切にしながら、上司や同僚、お客様など、本当に多くの方々に支えていただきましたので、今は、次の世代が性別に関係なく安心して挑戦できる環境や、人が育ち合う組織づくりに力を注いでいます。

― 順調にキャリアを重ねられてきたと思いますが、その中で苦労されたエピソードはありますか?
○子育てを通して気づいた、周りに頼ることの大切さ
キャリアを築く一方で、28歳でシングルマザーとなり、仕事と育児の両立という大きな壁に直面しました。振り返ると、子どもに親として育ててもらった部分も多く、母親としてはまだまだ半人前でした。
当初は「両親がそろっていないから、この子はできないことがある」「かわいそうだ」と、子ども自身が感じたり、周りからそう見られたりすることは避けたいという思いから、「自分一人で完璧にやらなければ」と肩肘を張って、夜遅くまで子どもを託児所に預けて働きました。しかし、ある時子どもが体調を崩したことで考えを改めるきっかけになり、自分が無理をして頑張ることが、必ずしも子どものためになることではないと気づきました。それからは、子どもや家庭のペースに合わせて仕事のやり方を調整し、家族や職場など、周囲に素直に「助けてほしい」と言えるようになりました。
完璧を目指すのではなく、周りに頼ること、助け合うことも働く力の一つだと思っています。だからこそ今は、働く一人ひとりにも、それぞれのライフステージや家庭の事情があることを大切にしたいと思っています。
誰もが安心して働き、挑戦し続けられる環境をつくることが、現在の女性活躍推進や人財育成の原点になっています。
― たくさんの人と関わってこられたと思いますが、社内に女性管理職の先例がない時代、どのようにして自身のリーダー像を作り上げたのですか。
○ロールモデルは、特定の誰かではなく、出会ってきたすべての人
「この人のようになりたい」という、一人のロールモデルはいませんでした。当時、社内には身近な女性管理職がおらず、自分が目指す姿を重ねられる人はいなかったように思います。その代わり、私はその時々の出会いを大切にしてきました。
「この人の考え方は素敵だな」「こんな働き方ができる人になりたい」と感じる方から少しずつ学び、自分の中に取り入れながら歩んできました。また、日々営業の勉強などをする中で本屋へ足を運び、自分が引き寄せられるものや共感できるような本を読むことで、自ら指針となる存在を探しました。
特に感銘を受けたのが、和田裕美氏の著書『営業のビタミン』や、元横浜市長の林文子氏の姿勢でした。林文子氏の書籍に書かれていた「失礼ながら、その売り方ではモノは売れません」という強烈なキャッチフレーズに惹かれ、手に取ったのがきっかけです。営業時代には、苦しい時に泣いてデトックスする方法など、感情の整え方が当時の私に驚くほどしっくりきました。モチベーションが下がった時の感情のコントロール方法や、仕事への向き合い方を、本を通じて学んできました。
一人の人を完璧に模倣するのではなく、本を通じて出会った様々な方から「いいとこ取り」をすることで、困ったときや挫折しそうなとき、本の言葉を読み返して「まだ大丈夫」と自分を奮い立たせる。この柔軟な学習スタイルが、自分らしい形を作ってくれたと感じています。
― 宇都宮市への想いを教えてください。
○宇都宮から広がる、誰もが寄り添い合える組織文化
宇都宮市の魅力は、LRTの開業をはじめとする交通インフラの充実や「餃子の街」「ジャズの街」としての文化的な深み、子育て支援の充実も素晴らしいです。そして、何より人と人との距離が近く、地域の温かさがあることだと思います。
だからこそ、地域・企業・行政がさらに連携し、多様な世代や立場の人がつながり合える環境が広がれば、子育て世代や女性だけでなく、誰もが安心して暮らし、活躍できるまちになっていくと期待しています。
― 今何かに悩み、もがいている方々へのメッセージをお願いいたします。
○助けを求めることは弱さではない
今、日々奮闘し、もがいている皆さんへ。もし今、仕事や育児で行き詰まっている方がいたら、どうか目に見える結果だけで自分の価値を決めないでください。一歩ずつの積み重ねが、必ず未来の自分に繋がっています。
そして何より大切にしてほしいのは、心が元気でいることです。忙しい時こそ、ほんの少しでも自分自身を大切にする時間を作ってほしいと思います。もし苦しいときや困ったときは、一人で抱え込まず、「助けて」と声を上げてください。助けを求めることは、決して弱さではありません。そして、もしあなたが子育てに疲れ、一人の時間が必要になったときは、ぜひ「ミナテラスとちぎ」へ足を運んでください。そこには、かつての自分と同じように悩み、それを力に変えてきた私と、温かく迎え入れてくれるスタッフがいます。
挑戦するときも、自分を大切にするときも、周りの人への感謝を忘れず、自分らしく一歩ずつ歩み続けてください。
― 最後に、今後の抱負について教えてください。
○女性活躍のその先へ
今後の目標は、女性活躍という枠を超えた、新しい組織文化の構築です。誰もが自分らしく働き互いに育て合い、寄り添い合える文化を作りたいと思っています。一人の力で組織は変わりませんが、一人ひとりが相手を思いやり、できることを積み重ねていく人が育てば組織が変わり、組織が変われば地域も元気になります。そんな未来を仲間と共に作っていきたいです。
このページに関するお問い合わせ
総合政策部 女性活躍推進課(市役所5階)
電話番号:028-632-2346 ファクス:028-632-5422
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